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《世界のキーパーソン》アシュファク・カヤニ(パキスタン陸軍参謀長)

「文民政権後」を期待される将軍

2010年9月号

 パキスタンの古都ラワルピンディー周辺の農村部は、「特産は兵士」というほど多くの軍人を生む。十九世紀に英軍が兵営を置いて以後、この地の膂力・胆力自慢はもちろん、食う道のない若者たちが軍歴に自らの運をかけてきた。独立後もその伝統は変わらず、この地のパンジャブ人たちは、最強の権力機構の中核を担っている。
 一九五二年、未来の陸軍参謀長が、そんな土地柄の旧家に生まれた。父親も軍人だったから、軍士官学校に入学したのは自然の流れだ。上官たちは彼に大将の器を見出し、米軍のエリート教育施設である陸軍歩兵学校、後には陸軍指揮幕僚大学に送り込んだ。
 七一年に任官して最初の戦いが、第三次印パ戦争。東パキスタンがバングラデシュとして独立する屈辱を味わった。以後、「パキスタンをどう守るのか?」が生涯のテーマになった。
 政治へのかかわりは早い。八八年にブット政権が誕生すると、軍を代表して首相副秘書官になった。三十代半ばの若い女性首相が、一つ年長の若い軍人をどう見ていたかは伝えられていないが、カヤニは首相府勤務で、政治の作法を身につけた。大言壮語を控え、軽々に旗幟鮮明にせず、注意・・・