「強力な政策」不在こそ政治混乱のもと
スティーブン・ヴォーゲル(カリフォルニア大学バークレー校 准教授)
2010年9月号公開
---政治が依然混沌としています。海外から見てどうお感じになりますか。
ヴォーゲル 日本の政治は複雑になるほど、外部から理解するのは難しく、最後は理解をあきらめるしかない。まさに現在はそのような状態ではないか。特に、相次ぐ首相の交代劇は新政権になっても続いている。異様な状況だと言わざるを得ない。民主党による政権交代は「日本の政治を根本から変える」という非常にシンプルかつ強烈なメッセージで、海外の日本ウオッチャーも民主党政権に対して高い期待を抱いたものだが、皆失望し、今では関心を失ってしまっている状況だ。
---マスコミの責任も大きいと思いますが。
ヴォーゲル マスコミは首相を引きずり下ろすことにまるで使命感を抱いているかのような振る舞いだ。国の顔がコロコロと変わることは、国益上、決して得策でないことは言うまでもない。ここ最近、短命に終わった歴代の首相にも問題が多いが、しかしマスコミは首相の妻が何をしているだとか、洋服はどうだとか、どうでもいいことを報じすぎる。政策の中身や争点を分かりやすく伝えることこそマスコミの本分である。政策上の批判は存分にするべきだが、くだらないことを報じるのはもうやめにした方がよい。
---そもそも日本の政治の失敗の原因はどこにあるとお考えですか。
ヴォーゲル この一年で起こったことは五十年以上、日本の政界を支配してきた自民党が、アマチュアによって置き換えられたということだ。だから、民主党の失策自体にはさほど驚きはない。問題は、「政策」を良くしようとするのではなく、「政治」を変えることに集中しすぎた点にある。事務次官等会議や政策調査会を廃止するなどの変化ははっきり言って必要ない。政権交代自体が最も重要な変化なのであり、あとは経済危機への対応を考えていればよかった。民主党政権の最大にして唯一の失政は、一貫した経済戦略を構築してこなかったことだ。これによってマスコミの関心も醜い政争へと偏り、政権の弱体化につながっている。
---政治の安定に向けて、一体、処方箋はあるのでしょうか。
ヴォーゲル まず民主党は本腰を入れて政策に集中すべきである。至ってシンプルかつ、当たり前のことだ。もっと強力な経済・成長戦略、IT戦略を練り、社会福祉政策や税制、予算編成など多くの面で強力な政策パッケージをつくることが必要である。強力な政策の不在こそが、政治を混乱させ、ここ数年の度重なる政権転覆を招いている。今こそ政策を固め、腰を据えた健全な政策論争を展開することで、逆に政権も安定へ向かい、マスコミの批判も政策的なものへと健全化しよう。政争にかまけている猶予などない。
---日本の政治の行く末についてはどのような見方をされていますか。
ヴォーゲル 個人的な見解だが、決して間違った方向に向かっているとは思わない。それは競争が激しくなったという意味でだが。自民党の時代は効果的な政治上の競争は皆無だった。今、日本はでこぼこ道ではあるが、少しずつより競争が激しい選挙システムに向かっている。二大政党制についてはいろいろと指摘もあろうが、争点を明確にし、政策を磨くことで競争的な選挙ができるなら、長い目でみて、それは日本にとっていいことだ。そのためには、自民党がviable(生存能力のある)競争相手になることも重要な条件だ。
スティーブン・ヴォーゲル(カリフォルニア大学バークレー校准教授)
1961年生まれ。プリンストン大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門は日本の政治経済。父親は著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で知られるエズラ・ヴォーゲル氏。
ヴォーゲル 日本の政治は複雑になるほど、外部から理解するのは難しく、最後は理解をあきらめるしかない。まさに現在はそのような状態ではないか。特に、相次ぐ首相の交代劇は新政権になっても続いている。異様な状況だと言わざるを得ない。民主党による政権交代は「日本の政治を根本から変える」という非常にシンプルかつ強烈なメッセージで、海外の日本ウオッチャーも民主党政権に対して高い期待を抱いたものだが、皆失望し、今では関心を失ってしまっている状況だ。
---マスコミの責任も大きいと思いますが。
ヴォーゲル マスコミは首相を引きずり下ろすことにまるで使命感を抱いているかのような振る舞いだ。国の顔がコロコロと変わることは、国益上、決して得策でないことは言うまでもない。ここ最近、短命に終わった歴代の首相にも問題が多いが、しかしマスコミは首相の妻が何をしているだとか、洋服はどうだとか、どうでもいいことを報じすぎる。政策の中身や争点を分かりやすく伝えることこそマスコミの本分である。政策上の批判は存分にするべきだが、くだらないことを報じるのはもうやめにした方がよい。
---そもそも日本の政治の失敗の原因はどこにあるとお考えですか。
ヴォーゲル この一年で起こったことは五十年以上、日本の政界を支配してきた自民党が、アマチュアによって置き換えられたということだ。だから、民主党の失策自体にはさほど驚きはない。問題は、「政策」を良くしようとするのではなく、「政治」を変えることに集中しすぎた点にある。事務次官等会議や政策調査会を廃止するなどの変化ははっきり言って必要ない。政権交代自体が最も重要な変化なのであり、あとは経済危機への対応を考えていればよかった。民主党政権の最大にして唯一の失政は、一貫した経済戦略を構築してこなかったことだ。これによってマスコミの関心も醜い政争へと偏り、政権の弱体化につながっている。
---政治の安定に向けて、一体、処方箋はあるのでしょうか。
ヴォーゲル まず民主党は本腰を入れて政策に集中すべきである。至ってシンプルかつ、当たり前のことだ。もっと強力な経済・成長戦略、IT戦略を練り、社会福祉政策や税制、予算編成など多くの面で強力な政策パッケージをつくることが必要である。強力な政策の不在こそが、政治を混乱させ、ここ数年の度重なる政権転覆を招いている。今こそ政策を固め、腰を据えた健全な政策論争を展開することで、逆に政権も安定へ向かい、マスコミの批判も政策的なものへと健全化しよう。政争にかまけている猶予などない。
---日本の政治の行く末についてはどのような見方をされていますか。
ヴォーゲル 個人的な見解だが、決して間違った方向に向かっているとは思わない。それは競争が激しくなったという意味でだが。自民党の時代は効果的な政治上の競争は皆無だった。今、日本はでこぼこ道ではあるが、少しずつより競争が激しい選挙システムに向かっている。二大政党制についてはいろいろと指摘もあろうが、争点を明確にし、政策を磨くことで競争的な選挙ができるなら、長い目でみて、それは日本にとっていいことだ。そのためには、自民党がviable(生存能力のある)競争相手になることも重要な条件だ。
スティーブン・ヴォーゲル(カリフォルニア大学バークレー校准教授)
1961年生まれ。プリンストン大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門は日本の政治経済。父親は著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で知られるエズラ・ヴォーゲル氏。
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