東欧揺るがす「民族主義ゲーム」
拡大EUが呼び込んだ「紛争の種」
2010年9月号
ヨーロッパに二十世紀の幽霊が徘徊し始めた。二度の世界大戦の底流となった、東欧の民族主義が、新世代の指導者たちの下で再び台頭しているのだ。特にハンガリーとルーマニアは、二十世紀前半まで時計を戻し、当時の自国領住民やその子孫に国籍を与え始めた。欧州連合(EU)は困惑し、ロシアやウクライナは、地政学を書き換える動きと見て警戒している。
二十一世紀の民族紛争の最前線は、ウクライナの南西端にあるブコヴィナ地方だ。中心都市チェルニウツィーは、「小ウィーン」と呼ばれるほど、中欧風の美しい街並みを誇る。ウクライナの他の都市とはだいぶ様相が違う。
それもそのはず。ブコヴィナは十八~十九世紀にはハプスブルク帝国東端に位置し、ホロコースト前まではユダヤ人が最大民族として、独特の文化を築いていた。
ルーマニアがここに総領事館を開設したのは一九九九年。ルーマニアはハプスブルク帝国解体から第二次世界大戦前まで、この地方を領有し、今も約一万六千人のルーマニア系住民が住む。ルーマニアが二〇〇七年にEU加盟国となり、さらにトライアン・バセスク大統領の右派政権が昨年五月、「一九・・・