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連載

本に遇う 連載128

エロスの詩人の骨法
河谷史夫

2010年8月号

「詩人といふものにはたれでもなれる」と堀口大學は書いている。
「自ら詩人と称するためには別に試験を受ける必要はない。免状を持たねばならぬといふ約束はない。詩人には鑑札はいらぬ」
 試験はないが詩を書く意志は要るだろう。言葉を見つけて定着した詩篇の一々が免状であろう。
「難儀なところに詩は尋ねたい/ぬきさしならぬ詩が作りたい/たとえば梁も柱もないが/しかも揺るがぬ一軒の家/行と行とが支へになつて/言葉と言葉がこだまし合つて/果てて果てない詩が作りたい/難儀なところに詩は求めたい」(「詩」)
 大學とはまた格別の名ではないか。父九萬一が東京帝国大学在学中、赤門前で生まれたからだが、子供のころ「小学生のくせに大學とは何だ」といじめられたし、フランス文学紹介の第一人者だったというのに、東大仏文科系の赤門派に徹底して疎外された。
「人に出生は選べない/時期も 血縁も/偶然だ」(「僕と明治」)
 親に縁薄き子であった。外交官になった父はいつも遠く外国にあったし、母とは三歳で死別した。
 三歳の喪主が母を焼いた。
「おろ・・・

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