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連載

本に遇う 連載125

三十八年目の証明
河谷 史夫

2010年5月号

 一人の男がいた。
 一人の女がいた。
 男には妻が、女には夫がいた。
 男と女に肉体関係ができた。
 男は外務省担当の新聞記者であった。女は外務省の審議官付き事務官であった。審議官のところへは、極秘の電報を含むさまざまの決済書類が回ってくる。男は、それを見せてくれないかと頼んだ。女は応じた。手に入れた極秘文書をもとに、男は記事を書いた。
 それはしかし、一面トップの華々しい特ダネというものではなかった。新聞では「解説雑報」と呼ばれる一見地味な扱いだった。男はひそかに「特ダネ」をしのばせたつもりかも知れなかった。
 たしかに事情に通じた者が読めば、おや、こんなことを、この記者はどうして知っているのだろう、と訝しく思っただろう。政府が極秘にしている事柄が出ていたからである。だが記事は、男の期待した反響を呼ぶことはなかった。
 書いた記者は毎日新聞の「敏腕」で知られる政治部記者である。男は「要警戒人物」とみなされた。
 持ち場替えがあり、男は外務省を離れた。女はそのまま審議官付きの職にあった。
「大人・・・