中東は「大統領の世襲」が大流行
エジプト・リビア・イエメン……
2010年5月号
西暦六四四年、預言者ムハンマドから数えて三代目、イスラム帝国に大きな繁栄をもたらしていた名君ウマル・イブン・ハッターブは暴漢に刺された傷がもとで死の床に就いていた。「息子のアブドッラを後継者に指名してはどうか」と薦める教友に対し、ウマルは即座に「アッラーに誓ってそのようなことを望んだことは一度もない」と固辞したという。
ウマルは「ファールーク(善悪の判断をつけられる人)」という称号で称えられている。イスラム史上の名君中の名君に関するこの逸話は、国の指導者がその時に臨んで正しい判断を下すことが如何に難しいかを示すとともに、権力の世襲の可否という課題が、一千四百年も前の時代に、今日と変わらぬ重大事として人々の関心の的であったことを証言している。
その中東イスラム社会では、今、「大統領の世襲」が大流行だ。ちょうど十年前、シリアの独裁者、アサド大統領の息子バッシャール・アサドが父の地位を継承してその先鞭をつけ、現在は、今年大統領選挙がおこなわれるエジプトで、在位三十年にならんとする「ムバラク王朝」の存続を認めるか否かで世論が二分している。いや、二分している、とい・・・