三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

不運の名選手たち 連載 4

加藤哲郎(元近鉄バファローズ投手)球史に残る「失言」の真相
中村 計

2010年4月号

 プロ野球史上、最大の失言といっていいかもしれない。
〈巨人はロッテより弱い〉
 一九八九年の日本シリーズ、第三戦で勝利投手となった近鉄の加藤哲郎は、試合後、そう言ったとされている。だが、ミステリアスなことに、翌日の各スポーツ紙のどこにもそんなコメントはない。
「おそらくテレビかなんかで誰かが言ったんだと思うんですよね」
 そのシリーズ、近鉄は開幕三連勝を飾り、一気に王手をかけた。お立ち台で、巨人の印象を聞かれた加藤は、昂然と言った。
「まあ、たいしたことなかったですね。シーズンの方がよっぽどしんどかったですから」
 大胆不敵な発言だった。だが、それは劣等感の裏返しでもあった。
「その頃、パ・リーグは一段、低く見られていた。だからセ・リーグ、とくに巨人に対してはコンプレックスがあった。近鉄の方が強いのに、って」
 ヒーローインタビューでは「ロッテ」という言葉は一切、使っていない。ただ、ベンチ裏で、報知新聞の記者とこんな会話をしたことだけは記憶している。
「最下位のロッテと比べて、どうです?」{br・・・