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連載

あるコスモポリタンの憂国 連載38

タクラマカン砂漠の奥で
紺野 大介(清華大学招聘教授)

2010年3月号

「時間地図」という言葉は誰が言い出したのだろうか。内陸アジアは懐が深く、目的地へ到達するには距離に比例せず、欧米の各都市へ行くよりも遥かに時間がかかる。二十世紀初頭では、北京から西端都市カシュガルまで片道で半年かかったそうである。中国の内陸西域は新疆ウイグル自治区。砂漠が大半の“新疆”とは中国語で「新しい国土」という意味である。またタクラマカンとはウイグル語でタッキリ(死)・マカン(無限に広い)という意であり、アフリカのサハラ砂漠に次いで世界第二の広さと共に、地下には石油・天然ガスを有する資源リッチな地域でもある。
 十年ほど前、休暇を利用し北京在住の日本人の仲間十数名と共に、タクラマカン砂漠と公路を約一週間かけ横断した。何千年もの悠久の間、ひたすらに黄沙が舞い積もってきたことを想像させる、人生観が変りそうな一面の砂漠があった。それでも公路の所々の砂山にタマリスクの小木、また熱砂に抵抗してきたためか、不恰好な枝ぶりとなった胡楊の木などがまばらにある。尾籠な話だが男性はともかく、ご婦人方の生理現象の処理には役立っていた。
 砂漠でオアシスとは何・・・