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連載

追想 バテレンの世紀 連載48

日本イエズス会と貿易
渡辺 京二

2010年3月号

 馬揃えは内裏の東に設けた南北八丁の馬場で行われ、正親町天皇以下公卿たちも桟敷をしつらえて観覧した。信長はヴァリニャーノが贈ったビロードの椅子を、家来たちに肩の高さまで担がせ、自分の後を歩かせた。武者たちと交って馬を疾駆させたあと、彼がわざわざ椅子に坐ってみせたのは、贈り主への心遣いだったのか。キリシタンたちはよろこびに包まれた。
 馬揃えが終ると信長は安土城に帰還し、ヴァリニャーノ一行を招いて、自ら城内を案内した。ヴァリニャーノたちがその壮麗を賞賛すると、信長は喜色を浮かべた。彼は以前フロイスにも語ったように、自分の評判がヨーロッパまで伝わってほしかったのだ。
 彼が帰国の際の土産にといってヴァリニャーノに一双の屏風を贈ったのも、ヨーロッパでの名声を求めてのことだった。安土城と城下町を描いた屏風で、信長はこれは内裏から望みがあったのに断わったくらいの品なのだが、わざわざ遠くから訪ねてくれた巡察使への敬意を示すために贈るのだともったいをつけた。
 ヴァリニャーノはこのあと、屏風を安土・都・堺・豊後の教会で展示し、人びとは群をなして見物したという。この屏風は・・・