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社会・文化

「名医」は日本の外にいる

「メディカル・ツーリズム」の最前線

2010年3月号

 今から七年ほど前、血行障害とリウマチが重なり合う難病に苦しんだ作家の石川好氏は、日本での治療で改善が見られずインドへ渡った。治療により難病は改善。インドの医療水準の高さに驚くとともに、治療で入院している海外からの患者の多さに驚愕した。自身の体験を公表したが、当時はそれほど関心を呼ばなかった。ようやく昨今、耳にするようになった「メディカル・ツーリズム」。石川氏自身の経験は、正にメディカル・ツーリズムの先駆けだった。
 最も一般的なメディカル・ツーリズムの定義とは、医療をサービス資源として海外から患者を呼び、外貨を獲得することである。二〇〇八年のレポートによると、米国人が心臓手術のためにメディカル・ツーリズム先進国のインド、シンガポール、タイ、マレーシアなどへ出向いた数は五万五千人以上。米国は医療費も医療保険も高く、保険に加入できない人が四千万人以上いる。富裕層は国内で世界最先端の治療を受け、ミドル層は治療費の安い諸外国へ出ていく傾向が年々強まっている。
 心臓手術にかかる費用は米国内がおよそ二百四十万~三百五十万円なのに対し、インドは六十万~八十万円、タイは八・・・