三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

本に遇う 連載122

谷川雁の復活 その二
河谷 史夫

2010年2月号

 没後十五年、谷川雁とは何者かといえば、まずは詩人であったというところから始めるべきであろう。暗喩と反語と逆説に満ちた雁の詩でいちばん有名なのは、「東京へゆくな」である。
〈ふるさとの悪霊どもの歯ぐきから/おれはみつけた 水仙いろした泥の都/波のようにやさしく奇怪な発音で/馬車を売ろう 杉を買おう 革命はこわい〉
 と書き出され、第二連で〈新しい国のうたを立ちのぼらせよ〉、第三連で〈虚無のからすを追いはらえ〉と命令形が連なる。そして〈あさはこわれやすいがらすだから/東京へゆくな ふるさとを創れ〉とたたみかける。
 一九五四年十一月に公刊された第一詩集『大地の商人』に入れられたこの詩は、この年五月に出た同人誌「母音」に載って一躍雁の名を高めた「原点が存在する」という文章に呼応する。
「段々降りてゆく」よりほかないのだ……と断定する雁は、その理由を明かす。「飛躍は主観的には生れない。下部へ、下部へ、根へ根へ、花咲かぬ処へ、暗黒のみちるところへ、そこに万有の母がある。初発のエネルギイがある」
 戦後九年。沸騰した混・・・