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連載

還りのいのち 還りの医療 自然死への道を求めて 連載39

医の眼差しは慰めと癒しである
米沢 慧(評論家)

2010年1月号

 終末期医療、緩和医療に関わる「日本死の臨床研究会年次大会」(二〇〇九年十一月七~八日 名古屋国際会議場)のメインテーマは『ホスピスの遠い道 その歴史と現在・未来』。その際、わが国ホスピス運動黎明期の一九八〇年代に「日本式ホスピスは私にはがん病棟にしかおもえない」「死の臨床の真髄はいのちへの配慮、平等意識です」と声を大にして訴えた戦争報道写真家岡村昭彦の業績にふれて講演する機会があった(その主旨は本コラム昨年八月号で記述したが、これについては日本財団会長笹川陽平氏がブログで即座に「日本のホスピスの原点は岡村昭彦にあり」と評価された)。
 イギリスで誕生した近代ホスピスは末期がん患者を医療現場から解放するところではじまったが、わが国では末期がん患者を収容する医療施設の確保に主眼がおかれたこと、そのため、ホスピス運動は屈折し医療者中心の展開になったのである。
 こうした誤解を正す意味から、諳んじてきたことばがあった。梶田昭『医学の歴史』冒頭の一節。
 〈医学は人間の、「慰めと癒し」の技術であり学問である〉
 医学の初源である「慰めと癒し」の原型をたず・・・