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連載

本に遇う 連載 121

谷川雁の復活 その一
河谷 史夫

2010年1月号

 半世紀のむかし、六〇年安保の前後に青年に大きな影響を与えた詩人思想家といえば、吉本隆明と谷川雁をもって双璧とする。
 後進に隆明派と雁派とがある。
 心酔して雁のことを「世界一の思想家」と称賛してはばからなかった八木俊樹の言を思い出す。京都大学学術出版会に盤踞して、当人の峻拒にもかかわらず谷川雁の全集『無の造形』をひそかに作った八木はこう言った。
「吉本には、たくさんついとるが、優秀なのはおらん。雁につくのは数少ないけど、みな優秀や」
 吉本隆明のほうは存命であるからその著書も書店にちらほら見られるが、没後ことしで十五年になる谷川雁となると、古本屋でも入手困難である。「言葉の魔術師」といわれ、暗喩の「革命詩人」といわれた谷川雁も、ほとんど忘れられていたと言っていい。
 それが、一昨年から昨年にかけて、『谷川雁セレクション』(二冊本)が日本経済評論社から出され、河出書房新社の「道の手帖」シリーズで『谷川雁 詩人思想家、復活』が編まれ、さらに講談社文芸文庫で詩文集が出た。岩崎稔・米谷匡史編の『セレクション』は八木版を定本の一つに使ったもの・・・