NTTの危うい政治工作が明るみに
総務相への献金に違法性の疑い
2010年1月号公開
「贈収賄が成立する典型的パターンだ。私が特捜部長だったらとっくに内偵を始めている」。ある東京地検特捜部出身の弁護士はこう指摘する。
二〇一〇年問題と呼ばれるNTTの組織見直し議論がスタートしたが、肝心の総務省のICT(情報通信技術)タスクフォースでは、NTTにとって都合のわるい組織問題は一向に俎上にあがらない。NTT労組から選挙支援を受けた原口一博総務大臣は就任当初から「(NTTの)切り刻み論が横行している。それが改革なのか」「(NTTの)手足を縛って飛べといっても飛べない」などとNTT擁護論を連発。副大臣人事では民主党の支持基盤であるNTT労組から、内藤正光参院議員を招く露骨な人事も断行した。
内藤副大臣は雑誌のインタビューで「国内に閉じた、しかもNTTの組織問題に終始する議論に一刻も早くピリオドを打ち、あるべき議論を始めたい」(日経コミュニケーション)と公言した。案の定、NTT組織問題を議論するはずのタスクフォースは巧妙にこの問題を忌避し、「コップの中の競争を論じているうちにグーグルやアマゾンに市場を奪われる」と危機意識をあおって「国内競争より国際競争力が大事だ」という論調を展開しつつある。
数々の判例が示す「賄賂性」
NTT労組の支援を受ける内藤氏はともかく、原口大臣までもがなぜこうもNTT擁護に走るのか。総務相就任当初から訝しがる向きもあったが、このほど、原口大臣と内藤副大臣に〇九年夏、NTT労組からの政治資金提供があったことが判明した。冒頭の指摘はそれを受けてのものである。
十一月二十七日の参議院総務委員会のやりとりを抜粋しよう。質問者は公明党の澤雄二議員、相手は原口、内藤正副大臣である。
澤 「今年、NTT労組の政治団体、アピール21から献金はありましたか?」
原口「今年、私の後援会へ三百万円の寄付をいただいております」
澤 「内藤副大臣も(中略)NTTもしくは労組から献金はございましたか」
内藤「二百万円です」
澤 「NTT関係からの献金は大臣の考え方に影響をあたえるのではないか」
原口「私が大臣になってから受けた献金ではありませんが、(返却を)検討したいと思っています」
アピール21から原口大臣への献金は以前から問題視されていたが、八月の衆院選直前にも献金があったことはこの総務委員会で初めて明らかになった。
冒頭の弁護士はこう指摘する。
「就任会見やタスクフォースでの発言は公務員の『職務行為』に相当する。『資金の提供』は総務委員会で明らかになった。あとは贈収賄のトライアングルの最後の一要件、『請託』が立証できれば十分に立件可能だ」
請託とは陳情のことを指す。つまり、NTT労組がNTT経営陣の意向を汲んで原口大臣か内藤副大臣に、「タスクフォースでは組織問題を取り上げないでくれ」と言っている現場がつかめさえすれば立派に贈収賄が成立するわけだ。
NTT労組の政治団体、アピール21がそもそもどんなスタンスなのか。同団体の前会長が〇八年七月、こんな文章を書いている。
「NTT労組にとって最重要課題である二〇一〇年の『NTT経営形態』の論議が迫っており、この一~二年が勝負となります。各種審議会ではNTTグループを標的にした規制強化の動きも見られるだけに、民主党の友好・支援議員を中心とする国会対策を強化する必要があります」(同団体ホームページより)
このように、NTT労組はNTT経営側と一枚岩となって「組織問題」を俎上にあげることを阻止することに、具体的な利益を有しているということが明白なのだ。
賄賂罪は政治家の職務の正不正を問わずに成立する。たとえ、NTT組織問題を取り上げず、国際競争力を主眼にするという大義名分があったとしてもだ。学校図書館法の成立に尽力した初当選の衆院議員に対して平凡社が渡した三十万円が「この法案の成立が平凡社に特別の利益をもたらすほどではなかったとしても」、「同法成立の努力に対する謝礼」として贈収賄が認められた事例もある(東京高裁昭和三十六年九月七日判決「高検速報」1007号)。
内藤副大臣は「政治資金規正法に則った献金」と弁明したが、これも言い訳にはならない。大阪高裁の判例がそれを証明している。
「資金の贈与が政治家が公務員として有する職務権限の行使に関する行為と対価関係にたつと認められればその資金の賄賂性は肯定される」(昭和五十八年二月十日「判例時報」1076号3)
さらに言えば、原口大臣が「私が大臣になってから受けた献金ではない」と主張したことも、残念ながら贈収賄の成立を否定する要件にはならない。刑法百九
十七条では、「公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において五年以下の懲役に処する」と明記されている。いわゆる「事前収賄罪」だ。
民主党追及の格好のネタに
NTT組織問題を二〇一〇年に再度議論すると決めたのは〇六年の竹中平蔵総務大臣による懇談会だ。当時はNTTの独占力を弱めるため、持ち株会社の廃止、ドコモの完全資本分離などが議論された。今回こうした議論を封じ込めることができればNTTの勝利となる。NTTの三浦惺社長は「組織論からは入らず、あくまでも利用者の利便性を考える」としてサービス本位の姿勢を打ち出しているが、内実はより再統合にベクトルを向けた議論の誘導を望んでいるのは間違いない。具体的には持ち株会社の維持は大前提とし、NTT東西地域会社のサービス一体化、ドコモの完全子会社化などがあげられるだろう。
原口・内藤ラインはNTT組織問題の棚上げによって、NTT労組、経営側との結びつきを強め、一〇年の参院選での支持基盤を確保する。NTT労使は組織問題を切り抜けるだけでなく、同社の規制緩和で実質上の再統合をもくろむ―。両者の利害関係は見事に一致する。
だが献金問題は、民主党政権の失点を暴きたい自民・公明勢力の格好のネタになりそうだ。問題がさらに広がりを見せれば、民主党とNTTの二人三脚による計画はそう露骨には押し通せなくなる可能性が高い。
折も折、東京地検特捜部は一連の西松建設事件の中途半端な幕引きで、「特捜部若手検事の間には憤懣やるかたないマグマがたまっている」(法務省関係者)という。
原口氏や内藤氏があまり調子に乗りすぎると、地検特捜部が食指を動かさないとも限らない。
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