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連載

テイレシアスの食卓 vol. 25

ジャガイモと欧州人の物語
河井 健司

2025年4月号

 フランスならびに世界各地で広く栽培される作物、ジャガイモにまつわるお話を少々。
 滞仏時に、勤め先のまかない調理で幾度となく作った覚えがあるフランス人の好物のひとつ、アシ・パルマンティエという料理がある。大まかに作り方を紹介すると、まず、玉葱のみじん切りを鍋に入れ、やさしく火を通したところに、同じくみじん切りにした牛肉を加えて混ぜながら炒める。ここにブイヨンスープなどの出汁を注ぎ、水気がなくなるまで煮つめ、塩と胡椒で調味して深皿の底に敷く。この上にマッシュポテトを重ね、パン粉を振りかけオーヴンでこんがり焼き上げれば完成。さほど手間がかからず作れる、肉とジャガイモのグラタンだ。素朴な大衆料理として、多くのビストロやカフェ・ブラッスリーでメニューに載っているが、実はこの一品、もとは宴会の残り物の仕立て直し。いわば再利用料理だ。
 その昔、接待として開かれた貴族やブルジョアの宴会の席では、大きい塊肉のローストなどを客前で取り分けて提供するのが常だった。例えばアロワイヨのローストとは、牛一頭の肩から腰までの丸ごとロースト。存在感があり豪勢な、こういった仕立ての料理は、もて・・・

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