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連載

現代史の言霊  第84話

4月の謝罪- ソ連「カチンの森事件」犯行自認 (1990年)
伊熊幹雄

2025年4月号

殺人者が殺害を認めたのは結構なことだ
レフ・ワレサ(ポーランド「連帯」委員長)

 歴史のウソはいつまでも残る。その真偽をめぐる論争はしばしば国家間の対立に発展し、両国民の心の底に長く刻まれる。カチンの森をめぐる80年あまりの物語は、その代表例だ。
 事件は、第2次世界大戦が始まった1939年9月が発端だ。
 アドルフ・ヒトラー率いるドイツ軍は9月1日、ポーランドの西側から侵攻した。事前に秘密協定を結んでいたソ連軍も9月17日、東側からポーランドに侵攻し、ポーランド政府は独ソの挟撃でたちまち崩壊した。政府高官たちの多くが国外に亡命した。
 ソ連占領地域には、多数のポーランド人が取り残された。住民たちだけでなく、中央政府や地方政府の指導層や軍人もいた。
 まもなく奇怪なことが起こり始めた。指導的立場にいたポーランド人エリート層が忽然と姿を消していったのだ。指導層がほぼ一斉に消息不明になってしまった。ソ連占領下のポーランドでは底知れない恐怖が蔓延した。
 ソ連側は「彼らは今、ソ・・・

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