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社会・文化

日本フィル「九州ツアー」今昔物語

「市民が主催」で半世紀の奇跡

2025年3月号

 日本初の放送局が結成する交響楽団として一九五六年に創設された日本フィルハーモニー交響楽団は、一九七五年から毎年冬(第二回から五回は初夏)に本拠地の東京・杉並を離れ九州九都市を巡る演奏旅行「日本フィルin Kyushu」に出る。
 一九七〇年代まで、莫大な経費が必要なオーケストラ巡業が主催できるのは、地元新聞社か放送局の文化事業部、あるいは労音や民音など鑑賞団体のみだった。バブル期を経て今世紀初頭の文化芸術振興基本法成立以降、地方公共団体の文化事業が一般的になった。ところがこの日本フィルのツアー、ボランティアが運営する実行委員会を福岡の連絡会議がとりまとめ、日本フィルと共催する民間事業なのである。アマチュア主催で半世紀続くプロ楽団ツアーなど、世界でも類例はない。

きっかけはフジテレビ

 創設から文化放送とフジテレビの専属だった日本フィルは、高度成長期末の一九六九年に財団化され、団員は財団所属となる。労働組合が結成され一九七一年暮れには日本初のオーケストラのストライキが勃発、世間を驚かせた。一九七二年・・・

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