三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

をんな千一夜 第96話

翠川 秋子 元祖「女子アナ」の無念
石井 妙子

2025年3月号

 年明けからフジテレビの女性アナウンサーをめぐる問題が連日、大きく取り上げられた。
 男性アナウンサーの脇に若い女性が座り笑顔を振りまく。男性識者が解説し、若い女性アナウンサーが「知りませんでした」と大げさに答える。そうした構図そのものに差別的なものが含まれている。テレビ局が根本から女性に対する考え方を改めなければ、今回の騒動も空騒ぎに終わるだろう。
 女性アナウンサーが誕生したのは大正十四年。第一号と言われた翠川秋子は知り合いの青年と自殺するという運命をたどった。そしてその死は未だに「情死」「心中」と安直に語られている。
 翠川の父は徳川家の砲術師範で日本橋界隈にかなりの土地を保有していた。そんな地主のひとり娘として翠川は明治二十二年に生まれた。武家出の両親は生活に疎く、次第に財産を失っていったが、まだ翠川が女子美術学校(現・女子美術大学)で西洋画を学ぶだけの余裕はあった。女子美では後に青鞜社に入社して「五色の酒事件」を起こす尾竹一枝(尾竹紅吉)とも知り合っている。
 翠川は容姿が華やかで物怖じしない性格だった。ある東大生と恋愛し、結婚する予定・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます