三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

テイレシアスの食卓 vol. 24

食材輸入業者のありがたさ
河井 健司

2025年3月号

 十七世紀後半のフランス。国王ルイ十四世が画策した権力闘争に巻き込まれ、イギリスに逃れた名料理人ヴァテル(Fritz Karl Watel 一六三五〜一六七一年)の才能を惜しんだコンデ公は、彼を擁護してフランスに呼び戻す。そして、改修を終えたシャンティイ城にルイ十四世を招き、三千人の招待客をもって国王を称える大宴会を企画した。指揮を執るのはヴァテル。万全を期して木曜日の夜に始まった宴会。肉断食の日にあたる、翌日の金曜日用の主菜として十分な量を手配したはずの魚が、当日の早朝にごく僅かしか届いていないと知ったヴァテルは、自身の不手際を恥じ、自室にて自らを刃で貫き命を絶った。まさにその時、追加で到着した大量の魚を載せた馬車が、城壁の門を潜るところだった。ある公爵夫人が愛娘に宛てた書簡に、そう綴られている。
 まったくもってフランス料理店など、まともにやればやるほど儲からない。そう頭では分かっていたものの、不甲斐ない決算書を目の当たりにすると、色々と気苦労を掛けている家族に心から申し訳なく思う。利益を圧迫している主な原因である料理とワインの高い原価率は、独りよがりの自己満足だと嘲笑を・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます