三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

社会・文化

今こそ愛でる「昭和のメロドラマ」

男と女の「性差」を味わう哀話

2025年2月号

「死んで、あたしと死んで、お願い、何とか言って……」
 新子は周作の愛撫を受けながらこう訴える。周作とは心中を誓った理ない仲。しかし、彼は「そんなことは昔のことなんだ」と囁いて取り合わない。新子の言葉を塞ぐように唇を求めてくる。
 昭和三十七(一九六二)年公開の松竹映画『秋津温泉』―。新子を演じた岡田茉莉子にとって映画出演百本記念作品であり、自らプロデュースも手掛けた。原作は藤原審爾の自伝的小説だが、この作品を縁に岡田と結婚した監督・吉田喜重の脚色によって、公開当時の時代色が濃くなっている。
 それは昭和のメロドラマ、まさしく“昭和の女”の物語だ。戦争を引きずり、戦後復興の世相に馴染めない男女の、その「性差」ゆえに破滅していく十七年の軌跡が描かれる。しかも、十七年の間に重ねた逢瀬と別離はわずか四回、つまり男を待ち続けた女の狂おしい葛藤の物語である。
 昭和百年に当たる今年、携帯電話もSNSもなかった時代のメロドラマはどう映るだろうか。令和の女性は「あたしと死んで」などとは、おそらく言わない。{b・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます