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連載

本に遇う 第302話

独裁者ナベツネ死す
河谷史夫

2025年2月号

 102人の知名人による『私の死亡記事』というのがある。新聞界では稀な「有名人」で74歳だった読売新聞社社長兼主筆渡邉恒雄も書いている。何と「カラス駆除中、転落死」とある。
 それによると、渡邉は2021年4月30日、庭の桜の大木に毒入りマヨネーズを盛った籠を仕掛けていて梯子の上から転落、外傷性脳内出血のため94歳で死んでいる。小野鳥の愛好家で、憎き天敵カラス絶滅には毒を食らわすのが最適と考えたという。稚気あふれる老人と言うべきか。
 現実には、想定よりも3年半長生きして24年12月19日、98歳の人生を終えた。読売新聞グループ本社代表取締役主筆という肩書を保持していた。主筆とは「筆政を掌る」と社内規定にいい、辞書には「記者の首席」とある。経営と編集の分離が常識の今日、タウン紙でもあるまいし、代表権者と主筆の兼任などあり得ないだろうと言われながら、渡邉は最期までそれに固執した。
 書いた記事が全てと、裏話やおのれを語ることを禁じる新聞記者と違って、渡邉はよく喋った。2000年にオーラルヒストリーの政治学者御厨貴らを聞き役に、政界の実見談を話した『渡邉恒雄回・・・