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連載

皇室の風 第197話

「未完のプロジェクト」
岩井克己

2025年2月号

 酷い時代だとの絶望感が、マス・メディアやSNS(交流サイト)で急速に膨らむ真贋入り乱れる情報、戦禍やテロ、自然災害の惨害の映像に接するにつけ、強まるばかりだ。
 既存の政党、官僚組織、企業組織そしてメディアまでも劣化と公共的影響力の空洞化、法的規範力の弱体化を指摘される。SNSの無秩序な肥大化が、誹謗中傷や偽情報などが国境を超えて悪鬼のごとく跋扈する深刻な社会問題を招いている。権力による監視社会化、選挙干渉の謀略までも現実化しつつあり、犠牲者が後を絶たない。
 こうした時代相のなかで、久しく忘れかけていたドイツの社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスの為事が、しきりに思い出され、胸を突かれるような思いにとらわれる。
 ハーバーマスの社会哲学は、フランクフルト学派の流れを受け継いで、ドイツの国家・国民はナチスの途方もない蛮行を生んでしまった自らの歴史・伝統・文化に自らのアイデンティティーを求めることはもはやできないとの絶望と反省から出発。戦後は国内的にも国際的にも市民社会の公共性の下で生きる以外に選択肢はないとの立場からマルクス、ウェーバー、パーソンズらの業績も・・・