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経済

NTTドコモが また「独禁法違反」

スマホ詐欺を助長する卑劣な悪行

2025年2月号公開

 近年、国民の97%が所有するスマートフォンを使った詐欺が横行している。詐欺の被害額は2023年に約1630億円にも達し、前年に比べて倍増する事態となった。
 詐欺の種類を見てみると、投資やロマンス詐欺、フィッシングメッセージからカード番号を盗まれるケースや、オレオレ詐欺などの特殊詐欺もある。警察庁関係者は「詐欺の被害は深刻で、キャッシュレス決済の利用者の年齢が高まりつつあることも被害を増加させる背景にある」と指摘する。
 政府は、「変化のスピードに立ち遅れることなく対処し、国民を詐欺の被害から守るためには、官民一体となって、一層強力な対策を迅速かつ的確に講じることが不可欠」と宣言して、官民が共闘しなくてはならない重要課題と位置付けている。
 最近ではそうしたスマホの被害に対して個人を守るセキュリティアプリも登場しており、需要が高まっている。詐欺を検知し、不正なアクセスをブロックするセキュリティアプリは、俗に「セキュリティ商材」と呼ばれ、スマホにインストールされている。「セキュリティ専門の企業が提供しているアプリは使いやすいという理由で、利用する高齢者も増えているとの報告を受けている」(前出警察庁関係者)という。
 ところが、そうしたセキュリティソフト販売企業の有効な対策アプリをスマホから締め出そうとしている企業がある。「他でもない、NTTドコモだ」と憤るのは総務省幹部だ。「ドコモショップで販売するスマホからドコモ製以外のセキュリティアプリの締め出しに同社が動いており、これを問題視した公正取引委員会が現在、調査に乗り出している」。

他社アプリ排除を強要

 日本の携帯業界は4社あるキャリア企業で市場構成されている。現在、契約者数で業界トップは41%のシェアを誇るNTTドコモだ。ただドコモには直営する携帯ショップはほぼなく、代わって携帯を販売するのは携帯ショップを運営する代理店となる。ティーガイアやコネクシオ、TDモバイルなどが大手として知られている。
 問題はここからだ。アプリ開発企業がドコモの携帯に新しいセキュリティアプリを搭載したい場合、その企業はまず販売代理店にその旨を要請する。すると販売代理店がドコモ本社に対して「業容拡大請求」を行って、承認を取る必要がある。ドコモが承認すれば、スマホにそのアプリが搭載されるようになるわけだ。アプリ搭載の承認権限を有するドコモは、優越的な立場にある。
 本誌の取材で今回、ドコモが自社製のセキュリティアプリを売りたい一心で、他社のアプリを今後申請しないよう販売代理店側に圧力をかけていることが判明した。ドコモは昨年11月までに、販売代理店各社に「セキュリティ商材の新規受付停止について」という文書を送付。それによれば、24年12月からドコモのセキュリティアプリ「あんしんセキュリティ」をリニューアルしてサービス開始するにあたり、その商品と機能が重複するセキュリティ商材について、代理店が新規に請求するのを停止する、と記されている。さらに各代理店には、この方針と、「ドコモのサービスと同様のサービスはドコモの商材提供開始後1カ月以内に取り扱いを終了する」という強引な通知を全国の携帯ショップに周知するよう要求している。
 大手販売代理店の幹部は、「要するに、『ドコモ以外のセキュリティ商材は排除する』という意味で、すでに申請が却下されたセキュリティ企業も出ている」と指摘する。さらに「これまで承認されてきた他社のセキュリティアプリを契約者に勧めるのをやめて、ドコモのアプリの販売を強化するよう代理店に要求すらしている。そうした他社アプリは今後取り扱いをやめる可能性も代理店に伝えてきている」と内情を明かした。

舐められた公正取引委員会

 ドコモがセキュリティアプリに目をつけ、他社の締め出しにかかったのには訳がある。前出の総務省幹部は、「日本のスマホのセキュリティ市場は200億円規模で、利益性が高く、契約の継続性もいい。ドコモは利益を独占したいのだろう」と嘆く。先の文書には、他社の締め出しの理由を、「セキュリティ商材の取り扱いが『ドコモ事業に大きく影響を与えるため』」だと認めている。
 ドコモの「あんしんセキュリティ」が他社に比べて優れているならまだいい。「セキュリティ企業などのアプリに比べて、機能は明らかに劣る。各代理店もそう評価しているはず。その差は大きいため、ユーザーのことを第一に考えればセキュリティ企業のアプリを提供したいのが本音だ」(前出代理店幹部)という。
 言うまでもなく、代理店に対して優越的地位にあるドコモがこうした要求を一方的に押し付ければ、独占禁止法に違反する。実は、ドコモには前科がある。21年10月に、公正取引委員会による「販売代理店との取引の適正化など」についての実態調査で、同委員会は、ドコモが販売代理店に対して、自社製品と競合関係にある商品の取り扱いを制限するという締め付けを行っていたことを問題視し、改善要請を出したのだ。
 これを受けて、ドコモは当時、「ドコモは今後も、適切な販売環境の構築や、販売代理店との適切な取引の継続に向けて取り組んでまいります」との見解を発表している。それも蛙の面になんとやら、24年に性懲りもなく、また同様の圧力を代理店にかけたことになる。前出の総務省関係者は「現場ではまたドコモが、懲りずに自らの利益のためだけに代理店や他社を振り回している」と呆れ顔だ。
 スマホによる詐欺被害が後を絶たない中、24年6月にはこの問題が国家的な脅威になっているとして、総理大臣官邸で犯罪対策閣僚会議が開催された。会議で決定した「国民を詐欺から守るための総合対策」として、政府は「被害に遭わせない」ための対策を強化する方針を発表した。それを受けて、日々巧妙化している手口に対し、セキュリティ対策の実績がある民間企業がアプリを提供してスマホの安全性向上に乗り出している。その矢先に、ドコモは自社アプリをゴリ押しし、利用者保護より自社利益だけを優先しているのだ。
 公共に対する使命から逃れ、利用者の利便性や安全性よりも、金儲けばかりを考える。NTTグループの倫理なき強欲が、ドコモにも浸透しきったようだ。舐められた公正取引委員会は、どうするのか。反省が皆無のドコモに厳罰を加えない限り、スマホが絡む詐欺は被害額を日増しに膨らませていくことになる。


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