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連載

現代史の言霊  第82話

2月の撤退- ソ連軍のチェコスロバキア撤退 (1990年2月)
伊熊幹雄

2025年2月号

過去と向き合う最善の方法は、前を向くことだ
バーツラフ・ハベル(チェコスロバキア大統領)

 ソ連はかつて東欧諸国に軍事基地のネットワークを持っていた。目的は、北大西洋条約機構(NATO)に対抗して、ワルシャワ条約機構の軍事力を維持するためだ。
 配備されたソ連軍将校たちには世俗的で、切実な役得もあった。ソ連に比べて、生活条件の良い東欧各国で、快適な暮らし、買い物をすることができたのだ。
 チェコスロバキアやハンガリーは元来農業や牧畜業が盛んな土地柄で、国内各地には、自慢のワイン、郷土料理があった。社会主義経済の欠陥で、各国農業は本来持っている潜在力を生かせなかったが、それでも東欧の食材は、ソ連と比べ格段に上質かつ豊富だった。
 新聞社の東欧特派員をしていた頃、モスクワ駐在の同僚がプラハに出張でやってきた。1980年代のチェコスロバキア、社会主義最後の頃である。
 首都のレストランで夕食を共にすると、「ここはいいなあ」と、しみじみと喜んでいた。西欧の首都や東京とは比較にもならないが、・・・