テイレシアスの食卓 vol. 22
新年祝いの焼き菓子に想う
河井 健司
2025年1月号
周知の通り日本では、クリスマス期のフレンチレストランは殊のほか忙しい。豪華なしつらえの高級店はもちろんのこと、個人経営の小規模店も年間で最大の書き入れ時となる。この時期に多くのレストランは、ここぞとばかりに売り上げを伸ばそうと夜の営業に滞在時間制限を設け、気取った鮨屋よろしく、おおよそ3時間で客を入れ替える。古くから付き合いのある某老舗洋館レストランの元支配人いわく、「せっかく来てくださったお客様には退店を急かして申し訳なく思う。しかし、経営陣の方針には逆らえない。本音を言うと接客の責任者として心苦しい」。もちろん筆者とて事業主である以上、利益を確保したい思いはある。しかしながら、帰国後に料理長を務めた店舗での苦い経験もあり、自店舗では繁忙期に於いても一席一客を旨としている。年末に無理をして数字を上げるよりも、閑散期と呼ばれる2月や8月の営業に注力した方がよっぽど健全と判断した。それにしても、クリスマス期のレストラン需要の高さには今更ながら驚く。そもそも日本におけるカトリック信徒の人口比率は云々と言いたいところだが、慣習化した経済活動に水を差すような意見は、料理業界関係者から叱られそ・・・