をんな千一夜 第93話
佐々木 カネヨ 夢二が理想とした「美」
石井 妙子
2024年12月号
先日、美人画で知られる竹久夢二の作品が新たに発見されたと新聞で報じられた。ゾルゲ事件で尾崎秀実を弁護した小林俊三が所蔵していた作品だという。
夢二は私生活で多くの女性と関係を持ち、モデルもひとりではないが、その画風に最も大きな影響を与えたのは「お葉」と呼ばれた、佐々木カネヨ(お兼)であったと言われる。カネヨは秋田県河辺郡の出身。母は花街の女性で婚姻関係を結ばずに明治37年、カネヨを産んだ。田舎では生きづらく母子は大正5年、第一次世界大戦による好景気に沸く東京へ出た。だが、母は納豆売り、カネヨは浅草近くの今戸で土人形を焼く工場に勤めたものの、長屋での生活は苦しく貧しかった。
そんなある日、長屋に見知らぬ女性が訪ねてくる。女性は上野にある官立の東京美術学校(現・東京藝術大学)教授の妻だった。「お嬢さんに、美術学校のモデルになってもらいたい」という。画学生の前でポーズを取る。着衣なら半日で40銭、裸体なら55銭。一人前の大工が1日働いて1円という時代。工場で得る収入の10倍だった。カネヨは行くと決めた。この時、12歳。
西洋画の修業には裸体デッサンが不可・・・
夢二は私生活で多くの女性と関係を持ち、モデルもひとりではないが、その画風に最も大きな影響を与えたのは「お葉」と呼ばれた、佐々木カネヨ(お兼)であったと言われる。カネヨは秋田県河辺郡の出身。母は花街の女性で婚姻関係を結ばずに明治37年、カネヨを産んだ。田舎では生きづらく母子は大正5年、第一次世界大戦による好景気に沸く東京へ出た。だが、母は納豆売り、カネヨは浅草近くの今戸で土人形を焼く工場に勤めたものの、長屋での生活は苦しく貧しかった。
そんなある日、長屋に見知らぬ女性が訪ねてくる。女性は上野にある官立の東京美術学校(現・東京藝術大学)教授の妻だった。「お嬢さんに、美術学校のモデルになってもらいたい」という。画学生の前でポーズを取る。着衣なら半日で40銭、裸体なら55銭。一人前の大工が1日働いて1円という時代。工場で得る収入の10倍だった。カネヨは行くと決めた。この時、12歳。
西洋画の修業には裸体デッサンが不可・・・