トヨタ章男こそ「大減収」の戦犯
認証不正問題の克服に無為無策
2024年12月号公開
「いい年してラリーなんかにうつつを抜かしていないで、今の会社の体たらくな状態をなんとかすべきだ」「レースファンなど一部に限られている。そんなことで悪化したトヨタグループのイメージをどれだけ回復できるのか」
トヨタ自動車の豊田章男会長に対する同社OBからの評判が悪化している。創業家出身で、かつ長期にわたって社長を務めた豊田氏に直言できる人間など社内にいない。そんな中、唯一忌憚なく物を言える立場にあったのがOBだったが、「コロナ禍以降、会社主催のOB会がなくなり、厳しいことを言える機会がなくなった」(関連会社の役員を務めたトヨタOB)。そんなOBたちがトヨタの現状に不満と不安を募らせ、それが厳しい言葉となって豊田氏に向かっている。
純利益「大幅減」の真相
その不安が的中したのが、2025年3月期中間決算である。売上高が23兆円を、営業利益が2兆4千億円を超えたことから、多くのメディアがこの決算を好意的に報じた。だが、純利益に目を向けると前年同期から26%も減少している。実に6823億円も目減りしたのだ。
トヨタは外貨建て資産の評価損と強調するが、市場予想を4千億円以上も下回っている。営業利益を見ても、前年同期から950億円も減った。この中間期において、同社はドルおよびユーロの双方に対して8%も円安に振れるという為替の追い風を受けている。一円の円安でドルに対して約500億円、ユーロに対して約100億円の増益効果があることを踏まえると、明らかな変調と言わざるを得ない。同社にとって最大の誤算は「認証不正」である。
トヨタは24年6月3日に公表した認証不正により、人気車種の「カローラフィールダー」など3車種について国土交通省から出荷停止処分を受けた。これで3カ月もの間、生産が止まったことなどが響き、日本での販売台数は前年同期比で12.4%も落ち込んだ。世界全体で見ても、販売台数は同じくトヨタ車で4%減、レクサス車を加えた場合で2.8%減となった。
そして、この販売台数の減少を遥かに超えるダメージをトヨタの決算にもたらしたのが、子会社である日野自動車で発覚した米国認証不正問題だ。
日野では、商用車や産業用ディーゼルエンジンの排ガスや燃費に関して国内で認証不正が見つかった。その事実を公表したのは22年3月のことだ。それから2年半が経過して、同社は米国当局との和解金、およびカナダで起こされた集団訴訟の和解金として合計2300億円もの特別損失を計上したのである。
日野の認証不正はもともと、北米向けエンジンの認証業務について社内で調査している過程で見つかった。そのため、国内認証不正が大きく報じられた際に、他の自動車メーカーからは「米国における法規適合性にも問題があるのではないか」といぶかしむ声が上がっていた。というのも、米国は日本以上に排ガスに対する基準が厳しいからだ。
カナダの集団訴訟の和解金は60億円だ。従って、2200億円以上が米国当局へ支払う和解金ということになる。ここまで高額であることに加えて、国内でも排ガスの基準不適合が見つかって一部のエンジンの型式指定が取り消されたままであることから、「排ガスが米国の法規が定める基準値を超えていたのは間違いない」(自動車業界関係者)。
噴飯物の「章男塾」
国内販売の最前線では、期待していた新車の発売の見通しが立たずにトヨタに対して恨み節を吐いている。「レクサスGXはもともと九月の発売を見込んでいたが、もう今年中は無理だろう。レクサスRXのマイナーチェンジの発売時期も読めない。全部止まっていて、全く見えない状況」(首都圏のレクサス販売店)。
国土交通省から幅広く意図的な不正があったとして是正命令を受けたトヨタにとって、2度と認証不正を指摘されるわけにはいかない。再発を何としても防ぐために、同社は国土交通省と相談しながら時間をかけて認証業務に取り組んでいる。一時は認証申請を凍結したこともあり、社内は「認証申請待ちで長蛇の列ができている」(トヨタの社員)状態だという。国土交通省も不正が見つかったメーカーの審査はより厳しく行うと表明しており、トヨタの国内における新車販売の計画がさらに遅れる恐れもある。
つまり、認証不正は今なおトヨタをはじめグループ企業に重くのしかかっている深刻な問題であり、今後も業績やレピュテーションリスクに負の影響を与え得る喫緊の課題なのである。にもかかわらず、豊田氏には危機意識のかけらもなく、仕事というよりも趣味に近いラリーやレースを優先して世界を飛び回る一方で、これについては無為無策を決め込んでいる。だからこそ、愛社精神を持つOBたちが怒りの声を上げているのだ。トヨタグループで相次いだ認証不正について「私が犯人(責任者)」「会社を造り直すくらいの覚悟が必要」などと大見得を切ったのは、一体誰だったのか。
豊田氏は、認証業務に関する研究会「章男塾法規認証TPS自主研究会」を立ち上げたと反論するかもしれない。ここには認証不正行為が見つかったトヨタ、日野、豊田自動織機、ダイハツ工業のグループ四社が参加し、認証業務に関する改善活動に取り組む様を自社メディア「トヨタイムズ」で披露している。
だが、問題の本質を理解しているとは思えない。自動車の量産と販売が認められるのは型式指定を取得できたメーカーのみだ。それには社内で認証業務を正しく行っていることが大前提となる。ところが、この研究会を主宰する豊田氏は、参加したメンバーの前で認証業務について「分かっていないことが分かった。ここで分かり始めたことが一歩前進だった」などと自賛している。今ごろ何を言っているのか。これから認証業務にきちんと取り組む体制をつくっていくというのでは遅いのだ。しかも、そのことに気付かずに認証業務が分かっていないと世間に宣伝するのも、馬鹿正直を通り越して呆れるほかない。
認証を含む開発業務に日々携わっている部門は、豊田氏のこうした言動など眼中にない。既に社内審査官を新設したり、品質保証部の監査を強化したりして認証不正が起きにくい仕組みを整備している。法規解釈の曖昧な部分を解消し、全工程の把握にも努めている。急がないと、今まさに認証申請しなければならない案件が通らないからだ。
彼らはこの「章男塾」なるものが豊田氏の自己満足に過ぎないことを分かっているはずだ。それを本人に伝えられないところに、トヨタの本当の問題が隠れている。
トヨタ自動車の豊田章男会長に対する同社OBからの評判が悪化している。創業家出身で、かつ長期にわたって社長を務めた豊田氏に直言できる人間など社内にいない。そんな中、唯一忌憚なく物を言える立場にあったのがOBだったが、「コロナ禍以降、会社主催のOB会がなくなり、厳しいことを言える機会がなくなった」(関連会社の役員を務めたトヨタOB)。そんなOBたちがトヨタの現状に不満と不安を募らせ、それが厳しい言葉となって豊田氏に向かっている。
純利益「大幅減」の真相
その不安が的中したのが、2025年3月期中間決算である。売上高が23兆円を、営業利益が2兆4千億円を超えたことから、多くのメディアがこの決算を好意的に報じた。だが、純利益に目を向けると前年同期から26%も減少している。実に6823億円も目減りしたのだ。
トヨタは外貨建て資産の評価損と強調するが、市場予想を4千億円以上も下回っている。営業利益を見ても、前年同期から950億円も減った。この中間期において、同社はドルおよびユーロの双方に対して8%も円安に振れるという為替の追い風を受けている。一円の円安でドルに対して約500億円、ユーロに対して約100億円の増益効果があることを踏まえると、明らかな変調と言わざるを得ない。同社にとって最大の誤算は「認証不正」である。
トヨタは24年6月3日に公表した認証不正により、人気車種の「カローラフィールダー」など3車種について国土交通省から出荷停止処分を受けた。これで3カ月もの間、生産が止まったことなどが響き、日本での販売台数は前年同期比で12.4%も落ち込んだ。世界全体で見ても、販売台数は同じくトヨタ車で4%減、レクサス車を加えた場合で2.8%減となった。
そして、この販売台数の減少を遥かに超えるダメージをトヨタの決算にもたらしたのが、子会社である日野自動車で発覚した米国認証不正問題だ。
日野では、商用車や産業用ディーゼルエンジンの排ガスや燃費に関して国内で認証不正が見つかった。その事実を公表したのは22年3月のことだ。それから2年半が経過して、同社は米国当局との和解金、およびカナダで起こされた集団訴訟の和解金として合計2300億円もの特別損失を計上したのである。
日野の認証不正はもともと、北米向けエンジンの認証業務について社内で調査している過程で見つかった。そのため、国内認証不正が大きく報じられた際に、他の自動車メーカーからは「米国における法規適合性にも問題があるのではないか」といぶかしむ声が上がっていた。というのも、米国は日本以上に排ガスに対する基準が厳しいからだ。
カナダの集団訴訟の和解金は60億円だ。従って、2200億円以上が米国当局へ支払う和解金ということになる。ここまで高額であることに加えて、国内でも排ガスの基準不適合が見つかって一部のエンジンの型式指定が取り消されたままであることから、「排ガスが米国の法規が定める基準値を超えていたのは間違いない」(自動車業界関係者)。
噴飯物の「章男塾」
国内販売の最前線では、期待していた新車の発売の見通しが立たずにトヨタに対して恨み節を吐いている。「レクサスGXはもともと九月の発売を見込んでいたが、もう今年中は無理だろう。レクサスRXのマイナーチェンジの発売時期も読めない。全部止まっていて、全く見えない状況」(首都圏のレクサス販売店)。
国土交通省から幅広く意図的な不正があったとして是正命令を受けたトヨタにとって、2度と認証不正を指摘されるわけにはいかない。再発を何としても防ぐために、同社は国土交通省と相談しながら時間をかけて認証業務に取り組んでいる。一時は認証申請を凍結したこともあり、社内は「認証申請待ちで長蛇の列ができている」(トヨタの社員)状態だという。国土交通省も不正が見つかったメーカーの審査はより厳しく行うと表明しており、トヨタの国内における新車販売の計画がさらに遅れる恐れもある。
つまり、認証不正は今なおトヨタをはじめグループ企業に重くのしかかっている深刻な問題であり、今後も業績やレピュテーションリスクに負の影響を与え得る喫緊の課題なのである。にもかかわらず、豊田氏には危機意識のかけらもなく、仕事というよりも趣味に近いラリーやレースを優先して世界を飛び回る一方で、これについては無為無策を決め込んでいる。だからこそ、愛社精神を持つOBたちが怒りの声を上げているのだ。トヨタグループで相次いだ認証不正について「私が犯人(責任者)」「会社を造り直すくらいの覚悟が必要」などと大見得を切ったのは、一体誰だったのか。
豊田氏は、認証業務に関する研究会「章男塾法規認証TPS自主研究会」を立ち上げたと反論するかもしれない。ここには認証不正行為が見つかったトヨタ、日野、豊田自動織機、ダイハツ工業のグループ四社が参加し、認証業務に関する改善活動に取り組む様を自社メディア「トヨタイムズ」で披露している。
だが、問題の本質を理解しているとは思えない。自動車の量産と販売が認められるのは型式指定を取得できたメーカーのみだ。それには社内で認証業務を正しく行っていることが大前提となる。ところが、この研究会を主宰する豊田氏は、参加したメンバーの前で認証業務について「分かっていないことが分かった。ここで分かり始めたことが一歩前進だった」などと自賛している。今ごろ何を言っているのか。これから認証業務にきちんと取り組む体制をつくっていくというのでは遅いのだ。しかも、そのことに気付かずに認証業務が分かっていないと世間に宣伝するのも、馬鹿正直を通り越して呆れるほかない。
認証を含む開発業務に日々携わっている部門は、豊田氏のこうした言動など眼中にない。既に社内審査官を新設したり、品質保証部の監査を強化したりして認証不正が起きにくい仕組みを整備している。法規解釈の曖昧な部分を解消し、全工程の把握にも努めている。急がないと、今まさに認証申請しなければならない案件が通らないからだ。
彼らはこの「章男塾」なるものが豊田氏の自己満足に過ぎないことを分かっているはずだ。それを本人に伝えられないところに、トヨタの本当の問題が隠れている。
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