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社会・文化

アラン・ドロンとは何者だったか

二枚目俳優を超えた「別の顔」

2024年11月号

 大女優ジャンヌ・モローは、当時四十歳のアラン・ドロンにこう言い放つ。
「あなたの特徴はその眼だわ。自尊心が強く、弱者を見つけるのがうまい捕食鳥、ハゲワシよ」
 一九七六年公開の仏伊合作映画『パリの灯は遠く』のワンシーン―。有閑夫人役のモローの台詞は、大往生を遂げた“世紀の二枚目”の複雑な人格を喝破していたかのような錯覚を誘う。
 眼、ドロンはまさしくその哀切な眼差しでスターダムへ昇った。出世作『太陽がいっぱい』の、恋人の手に口づけしつつ見澄ますスチール写真は魅惑的だ。貧しい青年が完全犯罪を謀って這い上がろうとする物語は、自身の不遇な生い立ちにも重なり、ドロンは天使の美貌と悪魔の心をもつ“現代のジュリアン・ソレル”と囃された。以来、多くの主演作をこなすが、ただの二枚目俳優ではない。
 壮年に至って自らプロデュースに乗り出す。その制作群の中でもホロコーストを扱った『パリの灯は遠く』は異色の作品である。ドロンを、ユダヤ人の悲劇に目覚めさせたのは誰か―。

“もう一人の自分”への豹変・・・

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