《クローズ・アップ》森田 敏夫(日本証券業協会会長)
野村證券「社長時代の犯罪」が発覚
2024年11月号公開
不祥事が相次ぐ証券業界で、ついに最大手である野村證券の違反事件まで飛び出した。9月25日、証券取引等監視委員会が金融庁に処分勧告した「長期国債先物に係る相場操縦」事件である。
同證券のトレーダーが国債先物取引でいわゆる「見せ玉」を使って、典型的な相場操縦行為をしていたと認定された。野村證券は2000万円余りの課徴金を課されたほか、財務省は同社の国債入札のプライマリーディーラー資格を約一カ月停止する処分を打ち出した。
ところで、SMBC日興証券や、三菱UFJ系の証券不祥事の際、「あり得ない事件」等々の厳しい感想を述べていたのが日本証券業協会の森田敏夫会長だった。証券業界ではいま、今回の事件について、野村證券出身の森田氏の去就が注目されている。
なぜなら、問題の取引が行われた2021年3月9日当時、森田氏は野村證券社長の立場にあったからだ。
同氏は同年6月に社長を退き、翌月、日証協会長に就任した。一方、森田氏に代わって、野村證券社長に就いたのは、現在の奥田健太郎氏(野村ホールディングス社長も兼任)である。
森田氏は野村時代、国内営業畑で活躍し、役員、社長へと昇格する過程では顧客重視に掲げた営業改革を断行したと評価された人物。しかしその足元で相場操縦が発生していた。しかも、その責任を問う側にあるのは森田氏が会長を務める日証協という図式なのだ。
森田氏は「残念かつ、誠に遺憾。責任を感じる」と定例会見では力なく発言するにとどまった。
しかし、三菱UFJ系3社のファイアーウォール規制違反問題で日証協は、5億円の過怠金を課している。
それだけ重大事だったという認識があったと言えるが、「相場操縦は、市場の価格形成を歪めるという点において、きわめて悪質、深刻な違反行為」と外資系証券の幹部は明言する。
しかも、SMBC日興や三菱UFJ系証券2社は言うまでもなく、メガバンク系列の証券会社である。ファイアーウォール問題を巡って、野村證券を筆頭に独立系証券会社は激しい論戦を繰り広げてきた経緯があり、そのうえ、銀行系2社による不祥事の際には、森田氏は証券業界を代表する立場から断罪とも受け取れる発言を放っていた。ここで出身社の違反行為を断ずる森田氏のトーンが弱まれば、「銀行系には厳しく、身内には甘い」というそしりは免れない
前述した通り、責任が問われるのは、相場操縦発生当時の森田社長体制の野村證券だ。「いまだかつて、日証協会長が社長だった当時の証券会社が犯した不祥事を同協会が裁いたという事例はない」(業界関係者)という。本件は前代未聞の出来事なのだ。「自主規制団体でもある日証協の会長が証券業界出身者から選任されている限り、こうしたケースは起こりえるということ」(外資系証券)という声が囁かれている。
独立系、銀行系、外資系、そして、ネット専業というように、同じ証券会社であっても、利害が微妙に食い違う「呉越同舟」なのが日証協の内情である。
本件に対する協会事務局の対応次第では、この構造に大きなひび割れが生じかねない。
同證券のトレーダーが国債先物取引でいわゆる「見せ玉」を使って、典型的な相場操縦行為をしていたと認定された。野村證券は2000万円余りの課徴金を課されたほか、財務省は同社の国債入札のプライマリーディーラー資格を約一カ月停止する処分を打ち出した。
ところで、SMBC日興証券や、三菱UFJ系の証券不祥事の際、「あり得ない事件」等々の厳しい感想を述べていたのが日本証券業協会の森田敏夫会長だった。証券業界ではいま、今回の事件について、野村證券出身の森田氏の去就が注目されている。
なぜなら、問題の取引が行われた2021年3月9日当時、森田氏は野村證券社長の立場にあったからだ。
同氏は同年6月に社長を退き、翌月、日証協会長に就任した。一方、森田氏に代わって、野村證券社長に就いたのは、現在の奥田健太郎氏(野村ホールディングス社長も兼任)である。
森田氏は野村時代、国内営業畑で活躍し、役員、社長へと昇格する過程では顧客重視に掲げた営業改革を断行したと評価された人物。しかしその足元で相場操縦が発生していた。しかも、その責任を問う側にあるのは森田氏が会長を務める日証協という図式なのだ。
森田氏は「残念かつ、誠に遺憾。責任を感じる」と定例会見では力なく発言するにとどまった。
しかし、三菱UFJ系3社のファイアーウォール規制違反問題で日証協は、5億円の過怠金を課している。
それだけ重大事だったという認識があったと言えるが、「相場操縦は、市場の価格形成を歪めるという点において、きわめて悪質、深刻な違反行為」と外資系証券の幹部は明言する。
しかも、SMBC日興や三菱UFJ系証券2社は言うまでもなく、メガバンク系列の証券会社である。ファイアーウォール問題を巡って、野村證券を筆頭に独立系証券会社は激しい論戦を繰り広げてきた経緯があり、そのうえ、銀行系2社による不祥事の際には、森田氏は証券業界を代表する立場から断罪とも受け取れる発言を放っていた。ここで出身社の違反行為を断ずる森田氏のトーンが弱まれば、「銀行系には厳しく、身内には甘い」というそしりは免れない
前述した通り、責任が問われるのは、相場操縦発生当時の森田社長体制の野村證券だ。「いまだかつて、日証協会長が社長だった当時の証券会社が犯した不祥事を同協会が裁いたという事例はない」(業界関係者)という。本件は前代未聞の出来事なのだ。「自主規制団体でもある日証協の会長が証券業界出身者から選任されている限り、こうしたケースは起こりえるということ」(外資系証券)という声が囁かれている。
独立系、銀行系、外資系、そして、ネット専業というように、同じ証券会社であっても、利害が微妙に食い違う「呉越同舟」なのが日証協の内情である。
本件に対する協会事務局の対応次第では、この構造に大きなひび割れが生じかねない。
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