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連載

をんな千一夜 第92話

モルガンお雪 伴侶も国籍も失った京女
石井 妙子

2024年11月号

 日本株が激しい値動きをして、投資初心者を戸惑わせている。経済ニュースでは、世界最大の投資銀行「JPモルガン」や「モルガン・スタンレー」といった言葉が飛び交う。その度に私が思い出すのは、寂しげなまなざしをした、京女の一生である。
 モルガンお雪―。祇園芸妓だった彼女は世界有数の大財閥モルガン一族の御曹司ジョージ・モルガンに見初められ、妻となり海を渡った。明治37(1904)年のことである。ちょうど日露戦争に沸く頃で、「金に買われた」と快く思わぬ排外主義者もいて、命の危機にさらされもしたという。
 明治14年、彼女は加藤雪(ユキ)として京都で生まれた。両親はともに天保生まれ。父は京都寺町六角で刀剣商を営んでいたが、明治3年に出された帯刀禁止令により一家は没落。4人姉妹は次々と祇園町に送られた。
 芸妓になった長姉から芸事をしこまれ、雪も14歳で「お雪」として祇園芸妓になった。瓜実顔に切れ長の一重まぶた。寂しげな憂い顔の無口な少女は、美妓揃いの祇園町では目立たぬ存在だった。
 モルガン財閥を作り上げたジョン・ピアポント・モルガンの甥にあたるジョージ・・・・