三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

テイレシアスの食卓 vol. 20

「まかない」と批判的精神
河井 健司

2024年11月号

 和洋中のジャンルを問わず多くの飲食店で、まかないの調理は料理人の大切な仕事のひとつだ。店舗の従業員達は、活力の源となる食事の後に、束の間の休憩をとることが多い。よって、営業前の僅かな自由時間を守るためにも提供時間の遅れは許されない。加えて内容もそれなりに工夫したものでなくてはならないから、経験の浅い料理人にとっては試練といえるが、これは日本だけではなくフランスの現場も変わらない。
 日本の厨房を10年ほど経験し、まかない調理の意味を十分理解していたつもりの筆者にとっても、パリの勤め先のそれは簡単ではなかった。何しろ従業員数が多く、50人分を作る。内容も凝っており、2週間先まで記した献立表の指示に沿って仕立てなければならない。指定された課題は、概ねフランス料理の教科書に載っているような古典料理や伝統料理だった。
 日本の現場と大きく異なるのは、毎週金曜日にあたる斎日の肉断食を除き、昼は肉料理で食べ応えのあるしっかりとした品が求められること。対して夜はキッシュやパスタなどの軽食を供するのは意外だったが、朝食を摂る習慣がない従業員が大多数のため、これを考慮してのことだっ・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます