三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

ウクライナを蝕む「宗教戦争」

プーチンが目指す「精神の占領」

2024年11月号

 ロシアのウクライナ侵略を巡って停戦論が高まっている。アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプは当選すれば就任前に戦争を止めると豪語。欧米では、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー政権に領土で譲歩させる見返りに何らかの安全保障を与える案が水面下で話し合われているようだ。しかし、ロシアはそうした交渉に乗るのか。ウラジーミル・プーチンの野望は領土の収奪では収まらない。
 8月、ウクライナ南部ヘルソン州アントニウスキー橋に近い地区に三発の砲弾が打ち込まれた。標的となったのはウクライナ正教会(OCU)に属する教会で、礼拝堂や聖職者の住居が破壊された。ヘルソン市内にいた神父は難を逃れたが、住民の消火活動中にもドローン攻撃があり、死傷者が出た。
 ヘルソン州は2022年2月の侵略直後にロシア軍に占領され、同年11月にアントニウスキー地区を含むドニプロ川の西岸がウクライナ軍により解放された。攻撃された教会は、解放後すぐにロシア正教会傘下の教会(UOC)を離れ、独立したOCUに合流していた。ロシア軍は「裏切り者」の教会を狙ったのだ。その直前には、同じ地区で、バチカンに仕え・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます