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社会・文化

終わりなき「ナチス略奪美術品」問題

世界が悩む「返還」の在り方

2024年10月号

 近頃、かつてナチスによってユダヤ人から略奪された美術品が元所有者の遺族に返還されるという報道が相次いでいる。2024年8月26日付ARTnewsウェブ英語版によると、アメリカ・ペンシルヴェニア州のアレンタウン美術館所蔵のクラーナハ(父)(1472−1553年)の作品がナチスによる略奪美術品と判明し、返還請求が出されたことから元所有者の相続人に返還されるとともに、その作品が来年1月の競売にかけられ、その売却益が所有者と美術館側で折半されるという。
  ナチスの略奪美術品に関してこの10年ほどで最も印象的な事件は、2013年にミュンヘンで発見された1500点にも及ぶ略奪絵画の一件で、これはその後18年に映画にもなっている。これほどの絵画を所有していたのは、ヒルデブラント・グルリットという、ユダヤ系でありながらナチスのために美術品売買も担当した人物の息子コルネリウス・グルリットで、発見された美術品の時価総額は10億ユーロ相当とされた。

署名しない日本

 そもそも、ユダヤ人の財宝の略奪をめぐっ・・・