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連載

本に遇う 第298話

ならぬことはならぬ
河谷史夫

2024年10月号

 この稿が出るころには、自民党の新総裁が次の首相に指名されていることだろう。誰がなるのか分からないが、誰になろうとこの国の行き詰まった政治に活路が開かれるとは思えない。
 岸田文雄の退陣は安倍晋三、菅義偉ときた政権投げ出しの三番煎じだ。その程度の政治家しか持てないのが嘆かわしい。「残念」と拉致被害者の家族は言い、長崎で救済を訴えた被爆者は「はしごを外された気持ち」と言ったというけれど、何かにつけて「結果を出す」と口にしていたのは、何も変わらないという意味だったと今更気づいても後の祭りである。
 岸田辞任には驚かないが、総裁選挙にわれもわれもと蠢いて、手を挙げたのが11人もいたのには驚いた。推薦人を揃えられた9人による猟官運動もどきの選挙戦にずらずら立ち並んだスローガンの空々しさには閉口した。
 問題は総理総裁になって何をするかだろう。「なることだけが目的で、首相としてやりたいことのなかった政治家」と岸田は見透かされていた。志の欠如は世襲の習いである。家業を継いだ三代目には唐様で字は書けても自前の書法はない。長くやっていたかっただけだ。ひたすら「延命」を図る・・・