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連載

金融の世紀

第22回【クレジットカードの無差別大量散布作戦】
黒木 亮

2024年10月号

 1958年9月18日、2年前からクレジットカード発行の準備を進めてきたバンク・オブ・アメリカは、サンフランシスコ都市圏とロサンゼルス都市圏の中間に位置する農産物の集散地、フレズノ市で、同行の顧客六万人に、無料のクレジットカード、「バンクアメリカード」をいきなり郵送した。それはさながら、農薬の散布か、B29爆撃機による戦争中の日本への降伏勧告のビラ散布を彷彿させた。
 クレジットカード業務を始めるには、カードの利用者とカードを受け入れる加盟店の両方を獲得しなくてはならない。しかし、利用者を獲得しようとすると、「使える店は十分にあるのか?」と訊かれ、加盟店を獲得しようとすると、「利用者は十分にいるのか?」と訊かれる。バンク・オブ・アメリカは、このジレンマを一挙に解決するため、申し込み無しでのカードの大量散布という冒険に踏み切った。
 バンクアメリカード事業の責任者は、43歳のシニア・バイス・プレジデント(執行役員・部長級)のジョセフ・P・ウィリアムズだった。ニュージャージー州生まれで、ペンシルヴェニア大学で学位を得て、フィラデルフィアの銀行で働いたあと、歩兵将校として・・・

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