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連載

皇室の風 第192話

幻と消えた「おことば」
岩井克己

2024年9月号

「天皇の『おことば』を何と心得るのか!」
 こんな大時代な嘆きを思わず覚えてしまった。
 令和最初の公式外国親善訪問となった令和5年(2023)6月のインドネシア訪問。ハイライトとなるはずだった歓迎午餐会でのスピーチ交換が「堅苦しくしたくない」とのジョコ大統領のツルの一声で直前にキャンセルされてなくなったとの報道に接したときだ。
 外野席の一介の元記者の分際で、と我ながら思う。しかし、長年にわたって天皇の「おことば」を「皇室親善外交」の粋とも華とも受け止めて真剣に取材し続けた専門記者の目からは、驚愕措くところ知らずだったのである。
 加えて、大統領自らゴルフカートを運転して案内したボゴール植物園で、大統領がやおら演台に立って紙を取り出し、歓迎の辞を読み上げ始めたのである。不意打ちで答辞を促された格好となった天皇は明らかに戸惑った様子だったが、何とかアドリブで感謝の言葉を(恐らく準備していた「おことば」の記憶をたどりながら)短く述べた。「事なきを得た」とは言いにくい、見ているほうも肝を冷やした場面に、SNS上では「大統領が陛下へ無茶振り」などの批判・・・