三万人のための情報誌 選択出版

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連載

テイレシアスの食卓 vol. 18

「クラシック料理」とはなんぞや
河井 健司

2024年9月号

 日ごと一人で店を切り盛りし、同業の友人も少なく厨房に引きこもりがちな筆者にとって、業界の情報を広く得られる料理専門誌の存在は有り難い。先ごろ手にした隔月刊誌は嬉しいことに、伝統的なフランス料理の特集記事を組んでいた。昨今のフュージョン化した料理ではなく、古典を踏まえたフランス料理を取り上げており、高度な専門性を備えた内容ではなかったものの、価値ある試みとの好印象を受けた。他の料理専門誌も流行を追うだけではなく、もう少し学術面を充実させてはいかがだろう。いや、流行こそが表象文化論の一分野です、と開き直られたら返す言葉もないが。
 ただ残念ながら、同誌で腑に落ちないところがいくつかあった。まず、冒頭部のコラムでブリア=サヴァラン著『美味礼讃』が絶賛されている。いわく、「食事がどのようにして私たちのアイデンティティや、他者との関係を形作るのかについて論じた金字塔、(中略)思考の要石として存在感が大きい」とのこと。これを執筆したのは博報堂に勤めていた人物である。嗚呼、やれやれまたか、と呆れてしまう。悲しいかな、ブリア=サヴァランの書は日本で誤解されやすく、厄介にもスノビズムと結びつ・・・