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タイ政局「大混乱」の内幕

愛娘「首相就任」でタクシンの苦境

2024年9月号

 長年の対立を経て、和解に向かったはずの、タイのタクシン派とエスタブリッシュメント層との間で再び対立の火種が見え始めた。軍の息のかかった憲法裁判所は、昨年5月の下院選挙後に軍系政党と大連立政権を樹立した「タイ貢献党」のセター首相を失職させた。背景にあるのは、増長するタクシン元首相への強い警戒である。セターに代わり新首相に就いたのは、タクシンの次女で37歳と若いペートンタンだ。チナワット家から輩出された歴代首相はタクシンを筆頭に、ことごとく保守派の抵抗に遭って失脚してきた。愛娘を「人質」に取られたタクシンは今、薄氷の政権運営を強いられている。

消えない保守派の警戒

「アルツハイマー病になる前に、首相に就任した娘を見ることができて嬉しいよ」
 タイの下院で8月16日に行われた首相指名選挙で、タイ貢献党党首を務めるペートンタンが首相に選ばれると、タクシンは愛娘に電話をかけて、そう冗談を飛ばした。だが、腹の内では、気が気ではなかったはずだ。タクシンはまだ「ペートンタン・カード」を切るタイミングではない、と考・・・