「安いニッポン」製造業の哀切
円安・賃金安・高齢者が支える現実
2024年8月号
「世界の工場」として揺るぎない地位を築いたかに見えた中国の優位性が急激に崩れ、「中国14億人の工場」に戻りつつある。米国による中国封じ込めに加え、インド、東南アジアなど周辺地域の競争力向上も大きな要因だ。その中に30年を超える経済低迷で賃金、物価がほとんどが上がっていない、歴史的円安もあって、意図せず高度成長期並みの国際競争力を取り戻した日本の姿もある。だが、そうした「安いニッポン」を支えるのは、低賃金の雇用延長や70歳超でも加工、清掃、配達など肉体労働を厭わない高齢者である。
経営側の「満額回答」などが相次ぎ、かつてない大幅賃上げに沸いた今春闘。もうひとつのポイントは定年延長など高齢社員の処遇改善だった。業績好調の自動車業界はトヨタ自動車が「職場のニーズに応じて65歳以上の再雇用も視野に入れる」と経営側が表明。スズキは「60歳を過ぎても体力や環境に問題がなければ、60歳時の業務、給与を維持する」と事実上の定年延長を示唆した。