国際秩序が消えゆく世界
「ポリセントリック」時代の危うさ
2024年8月号
混沌とする世界情勢を表す言葉として「multipolar world(多極世界)」ならぬ「polycentric world(多中心世界)」という表現がある。価値観や安全保障関係を固めた「極」ではなく、各国(中心)が利害によって合従連衡する世界を意味する。秩序を破壊するロシアがウクライナ侵略で優勢となり、ドナルド・トランプのアメリカ大統領返り咲きが現実味を増すなかで、各地でその様相が強まりつつある。
インド首相ナレンドラ・モディが7月、ロシアを訪問し、同国大統領ウラジーミル・プーチンと会談したことが、波紋を広げた。ワシントンで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれるタイミングであり、ロシア軍がウクライナ首都キーウの小児病院を含む各地への無差別攻撃を展開し、多数の死傷者が出た直後だった。
インドは対中国でアメリカや日本と協力を深めながら、対ロシア制裁には参加せず、中立的な立場を取る。それでも、2022年にロシアが本格的なウクライナ侵略を開始した後はプーチンとの2国間定期会談を見合わせていた。
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