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連載

をんな千一夜 第89話

高橋 お伝 七三一部隊に弄ばれた死刑囚
石井 妙子

2024年8月号

 女性による凶悪犯罪は、そもそも男性に比べて少なく、よって死刑囚となった女性も稀である。男を殺した女を「毒婦」という。蔑称であると同時に、蠱惑的な響きも、そこには含まれている。
 明治時代には「毒婦もの」というジャンルが成り立つほど、女性による男殺しが小説や芝居にされ、人気を博した。中でも、毒婦の代名詞となったのが「高橋お伝」だ。仮名垣魯文によって読み物になり、芝居や新聞記事でも、盛んに取り上げられた。お伝は、これらフィクション作品により、男狂いの淫蕩さ故、罪を犯した女とされ、実像が歪められてしまった。
 実際の高橋お伝は嘉永3(1850)年、群馬県利根郡下牧村(現みなかみ町)の生まれ。
 若い頃から器量よしで評判を取り、14歳の時に、親の勧めで最初の結婚をするが、すぐに離縁となり、つぎに嫁いだ相手が同村の高橋波之助だった。相思相愛で、皆がうらやむ美男美女の夫婦となったが、不幸なことに夫にらい病(ハンセン病)の兆候が現れてしまう。
 夫の鼻に詰まった膿を口で吸い出すほど、お伝は必死に看病をしたという。だが、病状は一向に良くならない。東京で名医に診・・・