モスクワからの電話はなかった
ミクロシュ・ネーメト（ハンガリー元首相）

　ヨーロッパ大陸の真ん中に位置するハンガリーには、バラトン湖という中欧最大の湖がある。欧州の東半分が共産主義体制下にあった1980年代には、大変な観光資源で、ハンガリー人だけでなく、周辺の共産主義国からも多くの観光客を集めていた。
　80年代の終わりに、筆者もハンガリーの友人から「ドライブしよう」と誘われた。
　現地に着いた後、困った記憶がある。美しい日本の海を知る身には、バラトン湖をどう褒めたら良いかわからなかったのだ。
　この湖は長い間、ただの観光地ではなかった。ワルシャワ条約機構加盟のソ連・東欧諸国の会議にひんぱんに使われた。香辛料と食材が豊富なハンガリー料理、トカイ・ワインも味わえた。そして対オーストリア国境に近かった。

保養地を目指した東独市民

　湖が引き付けたのは、東側の要人たちだけではなかった。
　特定のドイツ人には、極・・・