本に遇う 第295話
小さきものの生と死
河谷史夫
2024年7月号
「はて?」が今年の流行語大賞だろう。NHK朝の連続ドラマ「虎に翼」でヒロインの寅子が何かにつけて連発する。
始まってすぐの4月8日、朝日新聞の天声人語に「『はて』と首をかしげる寅子に、朝から深く共感している」とあったかと思うと、毎日新聞では翌九日付夕刊のコラムに小国綾子が「『はて?』に夢中だ」と同様の感想を表明。さらに佐藤千矢子が五月二十四日、上川陽子外相の「女性がうまずして何が女性でしょうか」発言に対して「『はて? 今は昭和初期でなく令和のはず』と言いたくなる」と批判の声を発した。
今は三人がかりの天声人語は無署名だが、「はて」の共感者は女性記者であろう。察するに明治以来裁判官と検事は「女人禁制」だった司法界に敢然と挑んだ寅子に、男社会の新聞社で何かと無念の涙を呑んできた彼女たちは自分の姿を重ねたのに違いない。
「女の思いを明確に言語化してくれるこのドラマを胸のすく思いで見ている」と朝日新聞の「テレビ時評」に山根基世が書いていた。寅子が日本初の女性弁護士なら山根はNHK初の女性アナウンス室長だったけれど、三十代で「お前にやってもらえる仕事、もうないよ・・・
始まってすぐの4月8日、朝日新聞の天声人語に「『はて』と首をかしげる寅子に、朝から深く共感している」とあったかと思うと、毎日新聞では翌九日付夕刊のコラムに小国綾子が「『はて?』に夢中だ」と同様の感想を表明。さらに佐藤千矢子が五月二十四日、上川陽子外相の「女性がうまずして何が女性でしょうか」発言に対して「『はて? 今は昭和初期でなく令和のはず』と言いたくなる」と批判の声を発した。
今は三人がかりの天声人語は無署名だが、「はて」の共感者は女性記者であろう。察するに明治以来裁判官と検事は「女人禁制」だった司法界に敢然と挑んだ寅子に、男社会の新聞社で何かと無念の涙を呑んできた彼女たちは自分の姿を重ねたのに違いない。
「女の思いを明確に言語化してくれるこのドラマを胸のすく思いで見ている」と朝日新聞の「テレビ時評」に山根基世が書いていた。寅子が日本初の女性弁護士なら山根はNHK初の女性アナウンス室長だったけれど、三十代で「お前にやってもらえる仕事、もうないよ・・・