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連載

テイレシアスの食卓 vol. 16

盛夏に食す鴨料理
河井 健司

2024年7月号

 好事家を除き、日本の暑い夏の日にフランス料理を食べたいと考える人は少数派に違いない。もっとも、これは仕方がないと思う。なにしろフランスと違って日本の夏は高温多湿、決して過ごし易くはない。一般的には、ようやく涼しくなる秋口からフランス料理の需要は高まる。ヨーロッパからジビエのシーズンの始まりを告げる野鳥が届き、12月には黒トリュフが出回る。そしてクリスマスはレストランの繁忙期だ。そんな訳で、多くの人がフランス料理に対して冬のイメージを持つのも無理はない。
 しかし、夏に旬を迎えるフランスの食材もちゃんとある。例えば、フランス版の松茸ともいえる高級キノコのセップ茸。油脂と好相性のため、通常はバターやオリーヴオイルを用いて加熱調理されるが、まれに生食でも提供される。身が引き締まって新鮮な、とびきり高品質のセップ茸を扱える高級店にしか許されない特別な仕立てだ。
 また、燦々と降り注ぐ陽光を浴びて、青々と茂った夏草を喰み育つ放牧仔羊の肉質は、春の乳飲み仔羊のエレガントな味わいとは趣が異なり、力強い美味しさがあふれている。調理する際は、タイムやローリエなどの香草で軽くマリネし・・・