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社会・文化

ソプラノ歌手「高橋美千子」の味わい

現代音楽の「難曲」に声で挑む

2024年7月号

 戦後の現代音楽最盛期、西ドイツではカールハインツ・シュトックハウゼンが「ベートーヴェンの再来」と賞讃されていた。テクノロジーと未来が素直に信じられたこの頃、四十代を迎えたアンファンテリブルは、1970年大阪万博で西ドイツ館の共同制作者に抜擢される。球体のパビリオン内部に無数のスピーカーを配置、連日5時間半にわたり生演奏と電子音の混交を響かせ、来訪者を驚かせた。
 21世紀まで生きたシュトックハウゼンは、78年から2003年までの後半生をオペラ《光》の創作に費やす。曜日を題とする七連作は、総演奏時間29時間で全曲上演に一週間が必要な超大作。詳細過ぎる指示に溢れた理解困難な楽譜、場面ごとに異なる特殊な編成、果ては弦楽四重奏をヘリコプターに乗せ会場上空から中継するという無謀な試みまで含んでいた。
 威信を懸け《木曜日》に始まる連作の上演を引き受けたミラノ・スカラ座だったが、作曲家の過剰な要求が組合と衝突。《土曜日》と《月曜日》までで撤退する。規模を縮小した《火曜日》と《金曜日》はライプツィヒ歌劇場が引き受けたものの、ヘリコプター四機が必要な《水曜日》と、二会場で異なる内・・・