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社会・文化

北海道の自然に密やかな異変

進行するイマドキの「環境破壊」

2024年6月号

 初夏、北海道東部の根釧原野は生命にあふれている。はるばるオーストラリアから渡ってきたオオジシギがゴゴゴゴという羽ばたき・風切り音を響かせて、急降下をくり返す。川沿いの森ではカッコウが陽気を楽しむようなのどかな声を放っている。
 農道をスタスタと歩むのはキタキツネの一家。子ギツネの足取りはややおぼつかないが、狩りを学ぶための「研修旅行」なのかもしれない。その少し先の草むらではユキウサギが静かに草を食んでいる。冬に真っ白だった体毛が、頭のてっぺんから褐色に変わり始め、もうすぐ毛変わりが完成する。まだまだら模様なんだから、気をつけないとキツネに見つかるよ!
 うららかな日差しに満ちていたはずが、急に辺りがうす暗くなる。風が湿り気を帯び、空気の流れが粒状に見えるようだ。海霧。地元では「ガス」、あるいは「ジリ」と呼ぶ。
 太平洋の冷たい海面に接した空気のかたまりが、水分を抱えきれずに水滴となり内陸に押し寄せる。霧ではなくガス。重い。海の方から、白い「壁」がゆっくり、ゆっくりと防風林を越えて迫ってくる。「ジリ」なんだな。
 雨でもないのに体が濡れ、湿気がま・・・

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