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連載

現代史の言霊  第74話

天安門事件㊦ 軍事制圧 (1989年)
伊熊 幹雄

2024年6月号

誰も母親には逆らえない
デモ参加の中国人男性

 北京・天安門広場の騒乱は大詰めを迎えた。5月号本欄で紹介したように、中国共産党の趙紫陽総書記が1989年5月19日未明、学生たちの前に姿を現した。趙総書記は涙を浮かべて、「もう解散しなさい」と呼びかけた。広場の学生たちは、黙って見つめていた。
 少し後のことだ。身なりのよい女性たちが、当局の警護を受けながら、広場の中心部に続々と現れた。自分たちの子供を探し、見つけると「さあ帰りましょう」と働きかけた。彼女たちの夫は、共産党や政府の高官だった。共産党指導部は露骨に、「まもなく軍事介入が行われるから、その前に解散し、帰宅せよ」と、特権階級の若者たちに呼びかけたのだ。

当局の奇妙な動き

 天安門事件は、共産党指導部がいかに「民主化」を阻止するかという決意を世界中に見せつけた。その一方で、最高指導者の鄧小平は、犠牲者を極力減らすよう様々な手段を講じていた。
 当時NHKの北京特派員だっ・・・