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連載

本に遇う 第294話

人はなんで生きるか
河谷史夫

2024年6月号

 思いがけないことに上野英信著『天皇陛下萬歳―爆弾三勇士序説』が、99歳の北村小夜さんとわたしの間の点線を実線としてくれた次第を前回書いた。
 小夜さんに惹かれるのは、独居して平然と「野垂れ死に」を望んでいるという日常生活上の胆の据わり様もさることながら、そこに人生に処するに於いて自らの根拠律を絶えず問い返してやまない精神の律動を見るからである。
 精神の営みとは「根拠の発見とそれによる行動の規律づけ」と定義したのは藤田省三であった。この常に根源的なことを問題にした思想史家は「今日の最も重大な課題は2つ。その1つは、行為1つ1つの根拠を問うこと、それはラディカルな精神の営みであるがゆえに、ただ単なる『ハプニング』と『エスカレーション』はそこではけっして許されない。もう1つはそうした根拠律によって体系化されている継承すべき精神形式をそれと見究め、そしてそれを断乎として擁護し持続させることである」と高らかに宣した。
 そして藤田は、「朝野新聞」の同僚とともに墨堤の花見をすることを例年の行事とした成島柳北の「看花記」を引くのである。
「花は1年に幾回開・・・