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連載

皇室の風 第188話

「勅伝書流」の筆蹟
岩井克己

2024年5月号

宮内庁参与として平成の皇室の相談役を長年務めた4人が令和2年(2020)6月18日付で退任し、上皇夫妻に拝謁した。
元宮内庁長官羽毛田信吾、元侍従長渡邉允、元警察庁長官國松孝次、元最高裁長官竹崎博允。江戸時代後期の光格天皇いらい200年ぶりの天皇の譲位という大事を特例法制定で何とか実現に漕ぎつけ、令和への天皇代替わり儀式も概ね滞りなく終わった。長年仕え、当初は譲位に反対したものの、国民世論・国会・内閣の理解を求め実現に尽力してくれた面々だけに、暇乞いの拝謁にみな感慨ひとしおだった。
事前の段取りでは、まず上皇がお言葉の紙を読み上げるはずだった。しかし、対面した上皇は、メモなしで懇篤な労いと感謝を述べた。
出席者によると、その席で上皇は光格天皇にふれ、以前から自分は和歌を懐紙に墨書するときには同天皇が遺した宸筆を鑑として念頭に置き書いてきたと明かしたという。長く側近トップを務めてきた面々も初めて聞いたといい、上皇の深い思いが垣間見えたように感じたという。
実は筆者も長年の取材で、上皇の和歌の筆蹟には度々接する機会があった。
昭和・平成の時・・・