大往生考 第53話
感謝の読経
佐野 海那斗
2024年5月号
不思議な葬儀に出席した。
場所は都内。亡くなったのは尊敬する八十代の知人男性だ。朝に葬儀場に行くと、12人が集まっていた。大人9人、子ども3人だ。大部分は親族で、それ以外は私ともう一人だけだった。
葬儀は午前9時開始の予定だった。ところが、定刻になっても僧侶が到着せず、始まる気配がない。知人には子どもがなかった。棺の傍には甥と姪が立ち、「おじさん、ありがとう」と泣きながら感謝の言葉を述べ続けていた。
午前10時頃、僧侶と思しき人物がやってきたが、夫人と話すだけで、読経する気配はない。程なく、葬儀場の案内人が「ご遺体に花を添えてください」と促した。そして、出棺。結局、読経はなく、火葬場へと向かうこととなった。
火葬場の待合室で僧侶と隣り合わせた。誠実そうな雰囲気の中年の男性だ。私が「なぜ、何もしないのですか」と尋ねると、彼は「故人には生前お世話になり、それでやってきたのです」と答えた。つまり、一人の友人として参列していると言うのだ。この僧侶は、火葬前に5分ほどお経を唱え、その間に参列者は焼香したが、説法をすることはなかった。
その後、納骨・・・
場所は都内。亡くなったのは尊敬する八十代の知人男性だ。朝に葬儀場に行くと、12人が集まっていた。大人9人、子ども3人だ。大部分は親族で、それ以外は私ともう一人だけだった。
葬儀は午前9時開始の予定だった。ところが、定刻になっても僧侶が到着せず、始まる気配がない。知人には子どもがなかった。棺の傍には甥と姪が立ち、「おじさん、ありがとう」と泣きながら感謝の言葉を述べ続けていた。
午前10時頃、僧侶と思しき人物がやってきたが、夫人と話すだけで、読経する気配はない。程なく、葬儀場の案内人が「ご遺体に花を添えてください」と促した。そして、出棺。結局、読経はなく、火葬場へと向かうこととなった。
火葬場の待合室で僧侶と隣り合わせた。誠実そうな雰囲気の中年の男性だ。私が「なぜ、何もしないのですか」と尋ねると、彼は「故人には生前お世話になり、それでやってきたのです」と答えた。つまり、一人の友人として参列していると言うのだ。この僧侶は、火葬前に5分ほどお経を唱え、その間に参列者は焼香したが、説法をすることはなかった。
その後、納骨・・・